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サンクト・ペテルブルグ
エポック3の戦略

天文台プレイの終焉

これまで、「天文台プレイ」「建て替えプレイ」「建物プレイ」「18貴族プレイ」の代表的な4つの戦法を紹介した。ここまでがエポック2であり、どの戦略もわりと均衡した戦いとなっていた。しかし、ここでメタ・ゲームは風雲急を告げる事態となる。天文台プレイが完全に「看破」されるのである。

天文台プレイは毎ターン1枚ずつ引けるうえに、貴族種類が増えると加速度的に点数が入るため、ゲームは長引いたほうが有利となる。逆にいえば、早く終わると不利になってしまう。ゲームが早く終わるかどうかは流れ次第だ。が、これが「コントロール」できるとしたら、どうであろうか。第1ターンに天文台を取られたのを見てから、早く終わらせるようにさせる戦略が出てきてしまったのである。

サンクト・ペテルブルグは普通にプレイすると、6ターンで終わる。ここで、どの山札が尽きるかはゲーム次第だが、あるプレイヤーが、5ターン目において一番薄い山札は大体「建物」の山札であることに気がついたのである。そう、4ターン目までに建物のへりを早くし、5ターン目の職人フェイズでちょうど建物のデッキ枚数がゼロになるよう、わざと不要なカードを手札にいれると、サンクト・ペテルブルグは通常より1ターン早い5ターンで終わるのである。これを行うためには、建物デッキの残り枚数を完全に把握する必要がある。といっても、これはすぐに、そう難しいことではないことが分かる。建物デッキの全枚数は28枚であるが、第1ターンは必ず職人が8枚買われるので、8枚の建物デッキが削られる。つまり、20枚からスタートする。ここから、第2、第3、第4ターンでめくられた建物の枚数を記憶しておけば、3つの数字を覚えるだけで、第5ターンの職人フェイズで何枚のカードを削れば建物デッキをゼロにできるかがわかるのである。この「技術」により、完全に貴族ばかりを引く天文台プレイというのはなかなか勝つのが難しくなり、天文台を建て替えたりするような別のプレイングを余儀なくされるようになった。


18貴族プレイの台頭

5ターンでゲームを終了させる技術の発見により、18貴族プレイが圧倒的な力を見せ始める。つまり、18貴族をゲットし、建物を毎ターン限界まで買い、5ターンでしっかり終わらせる。この3段コンボは絶対的な力であり、決まると絶対に勝つ戦略となった。もちろん、5ターンでしっかり終わらせるところを誤ると、天文台プレイに負けることも多々あるため、ちゃんとコンボの3回目まで決めることが重要である。あまりにも絶対的な強さであるため、18貴族は神格化され、「力の化身」などと呼ばれるようになったほどである。


18貴族をめぐる攻防

18貴族プレイはどうしようもできないので、新たな戦略が考案される。18貴族は27枚の貴族デッキのうち、2枚入っていることが注目される。第1ターンに貴族が出る枚数に対する、18貴族の出る確率を計算すると、第1ターンでは貴族を1枚めくるごとに、約7%ずつ18貴族が出る確率が上昇する。18貴族は出たら必ず勝つことから、これは「勝利曲線」と呼ばれるようになった。この勝利曲線のスレッショルドというのがポイントであり、例えば最初に4枚貴族がめくれた場合、18貴族が第1ターンで出現してしまう(=貴族の親番プレイヤーが勝つ)可能性は約28%となる。これはそもそも4人でゲームをしている場合、勝率は25%であるべきはずなのに、第1ターンの再序盤からこれを上回る可能性で勝率が分配されてしまうことになる。しかも、仮に第1ターンに4枚貴族が出る状況になろうとしている場合、貴族の親番プレイヤーは間違いなく1枚建物を手札に加え、5枚の貴族がめくられるようにしてくる。こうなると勝利曲線の値は約34%となり、一気にイチロー並みの強打者になってしまうのである。

これを受けて、最初の貴族フェイズでは、3枚になるように「空き」が調整されるようになる。最初の貴族第4プレイヤーは4番目の貴族の「空き」をあけてこないようになるのである。もちろん、貴族の親番が2枚手札にとり、無理やり5枚の空きにすることもできるが、そうすると「手札マネージメント」がきつくなり、最後の5ターン目職人フェイズで手札がいっぱいになってしまう場合がある。そうなると適当なカードを手札に入れて5ターンで終わらせることができなくなるため、うかつには第1ターンで2枚手札に入れることはできなくなるのである。このように、第1ターンから最終ターンのことを予測した動きをするようなレベルとなり、貴族の空きは3枚となる。18貴族プレイが決まる確率も約21%に抑えられるようになり、他のプレイでも十分勝てる見込みがある環境となった。


絶望ポジション

ここからは少し違う角度の話となる。第1ターンの親番が「職人」であり、かつ下家が「貴族」の親番である場合、これは「絶望ポジション」と呼ばれる。このポジションは先にあげたような各有効なプレイングがまったく狙えないようなポジションである。やりこめばやりこむほど、このポジションは絶対に勝てないことがよくわかるのである。このポジションはゲームをする上でいきなり勝率が0%に近くなってしまうことから、「絶望ポジションになった場合は職人・貴族の親番を交換する」というハウスルールを設けたこともあった。

しかしながら、現実にはそういうルールはないため、この場合にどう這い上がるかということが研究対象となった。勝てない理由としては、18貴族プレイを抑えるために、最初に出ている貴族を3枚に抑えている役割を、絶望ポジションのプレイヤーが行っているということが着目された。絶望ポジションのプレイヤーは元から勝つ可能性が全然ないのに、14%貴族親番の勝率が変わったところで、それは自分の勝利確率とは全く関係がないということがいえる。このため、絶望ポジションになった場合、貴族4枚目がオープンされるという、メタの逆行現象がみられた(この場合、貴族は自動的に5枚目もオープンされるであろうが)。これによって可能性をこじ開け、閉塞状況であった絶望ポジションからでも勝利を挙げるプレイヤーが出てきたのである。


おわりに
以上が、サンクト・ペテルブルグの「エポック3」の戦いでした。大昔の話ですが、僕が所属していたサークルではずっとサンクト・ペテルブルグが回っていて、およそ2年くらいかけてこのメタ・ゲームの変遷が行われました。ここまで味わい尽くせたゲームは無いと思います。コンポーネントのカードや紙幣が汚くなって擦り切れて、ぼろぼろになって捨てて買いなおすレベルまでやりましたね。18貴族とかの一見バランスが悪いカードも、プレイングで出現確率を抑えることで大暴れを抑止するレベルになって、ここまで研究したのは他にないと思います。PC版もありますんで、これ1000回くらいやると、この境地に至ることができると思います。(PC版はPC版でAIの癖を利用した18貴族の抑え込みなどもあります)。